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恋に落ちて#3

男は首をひねってみた。
「自分の身体を確認したいのだが……おかしいな」
「ロバは目が横についているのでいまの姿勢では見られません」
「つまり俺はいま、まさにロバだってことだな……しかしなぜロバに?」
「ロバとあなたの身体が、入れ替わってしまったからです」
「ではあそこで死んでいるロバは……」
「あれは数日前に狼に追われ、足をすべらせて落下したロバです。あのロバがクッションになってわたしたちは助かったんです」
「俺のロバではなかったのか」
「いいえ、あなたのロバです」
「どゆこと?」
「この場所は時空がゆがんでいるのです。ここは時空の裂け目でもあるのです」
「では俺たちと落ちたロバは」
「どこかで途方に暮れているでしょう。あなたの姿で」
「想像したくないな。そもそもなぜロバと入れ替わってしまうのだ」
「すべてわたしが悪いのです。だから殺してくださればよかったのです」
 男は黙って起き上がった。ゆっくりと。
 そのころ、男と入れ替わったロバは、若い雌ロバとよろしくやっていた。

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