「もー、ごめんねってば」
帰り道、宙はむくれている。まだほのかに残る赤に照らされ、その色に染められながら。
結局、この宙という男の子について、名前と、お姉さんがいるということくらいしかわからなかった。そういえば、宙はずっと私のことを“姉ちゃん”と呼ぶ。
「どうした“姉ちゃん”?」
ほら。名前なら、いくらでも聞く機会はあったろうに。
そう言うと、宙は一言。
「……知ってるから」
どういうことだろう。いつ、知ることができただろうか。
私には宙の言うことが理解できなかったのだけれど、宙があまりにも真剣で。
「宙?」
「ぼく、そろそろ行かなきゃ。楽しかったよ、姉ちゃん」
「待って!」
宙はその時、私が初めて見る無邪気な顔で笑った。
「またな、姉ちゃん」
そう言い残して消えたことだけは覚えている。
続く