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Heterochromia of Iris [1]

「虹彩異色症......私が?」
 少女は思わず横の窓に自分の顔を映してみた。どちらの目も、紛れもない黒だ。
「ええ、そうなんです」医者が言った。
「確かに見た目には分かりにくいかもしれませんが、確かに虹彩異色症と同じ症状が出ているんですよ。昨日、耳鼻科にいらしったんでしたっけ」
「ええ、まあ......」
 そう。少女は昨日、近頃右の耳が聞こえづらいので、検査を受けようと耳鼻科に赴いたのだが、幾つか検査を受けた後、
────ここじゃあ十分な検査ができないようですから、いい病院を紹介いたしますから、是非そこにお行きなさい────
 と、この内科病院を紹介されたので、今日来てみたのである。
「その右耳の聴覚障害も、虹彩異色症の影響のようなんです。あなたには、若干ですが斜視の傾向も見られますし」
「で、これは治るんでしょうか......」
「うーん、今のところ治療法は存在しませんが、日常生活にさほど影響は与えないと思います。今違和感を感じてらっしゃるのも、左右の差が強まってきただけで、聴力そのものは不自由と言うものではなかったですよ。むしろ左耳が良すぎるくらいです」
「そうですか......」
 じゃあなんともないのか。少女は安心したような、拍子抜けしたような、何とも言えない感情に苛まれていた。
「念のため、お薬出しときますね」
 そういうと医者は、おもむろに処方箋を出してきた。
「何の薬でしょうか」
「えっとですね、これは、安定剤です」
 ..................安定剤?
「どうして安定剤なんかを」
「あ、不必要なら服用しなくっても結構ですよ。まあ、念のため、というやつです」
「......はあ」
 言われるままに少女は処方箋を受けとると、
「ありがとうございましたー」
 診察室を出て、受付で支払いのために名前が呼ばれるのを待った。

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