通学途中、駅のホームで、わたしを凝視している中年サラリーマンがいるなと思ってよく見たらわたしだった。
そんなばかな、わたしはここにいる、だいいちわたしは男ではない、中年でもない、女子高生だと自分に言いきかせたが、どう見てもその中年サラリーマンは自分なのだった。
中年サラリーマンが近づいてきた。
「僕じゃないか、何やってるんだ。こんな所で」
わたしはショックで言葉を発することができなかった。
「まさか僕の前に現れるとはね。……とにかく家に戻ろう。まいったなぁ、今日会議なのに」
中年サラリーマンがわたしの手を握り、引っ張った。わたしが振りほどこうとすると、中年サラリーマンは声を荒げて言った。
「いい加減にしろ! 君は僕なんだぞ」
「どうしました?」
若いサラリーマン三人組がわたしたちの間に割って入った。
「いや、この子が……」
中年サラリーマンが説明しようとする。
「お知り合いですか?」
三人組のなかの先輩っぽいのがわたしにきいた。
わたしは首を横に振った。
先輩っぽいのが目くばせした。中年サラリーマンは、後輩っぽい二人にがっしり肩をつかまれ、先輩っぽいのに先導される形でホームから消えた。
電車に乗り込むと、一気に力が抜けた。わたしはバッグからコンパクトミラーを取り出して開いた。わたしが映っていた。わたしはわたしだった。もう大丈夫。