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文学少女(5)

 その日から、私の居場所が「家」だけになった。いや、「ならざるを得なかった」と言う方が正しいかもしれない。私は部屋から一歩も出なかった。中から鍵をかけて、誰にも入らせないようにした。
 学校にも行かず、ご飯も食べない私を心配したのか、両親が私の部屋の前に来て
「ご飯食べないの?」
だとか、
「ずっと閉じこもっていたら、体を壊すぞ」
と声を掛けてきたが、私はそれをずっと無視し、答えなかった。今まで一度も私の事を見てくれなかったくせに、こうなってしまったからって、まるで良い夫婦・良い親らしく振る舞う両親に怒りを通り越して呆れてしまっていた。
 部屋の中で一人閉じこもっていると、部屋の窓から色んな人の声が鮮明に聞こえてきた。
「そのバック、可愛いっ!!」
「え~? そう?」
「斬新な形だね。よく似合ってる!!」
「でしょ~?」
「いいな~。私も欲しい!!」
けれど、そんな会話が聞こえてきてどんなに窓から外を見ても、私にはそのバックがどんな形なのか、ましてや、どんな色なのかさえ想像できない……。その時、あんなにも『どうでも良い』と思っていた世界が、見たくなった。『目が見えなくなってから「見たい」と思うなんて、皮肉なものだ』と思った。
 それから一ヶ月が経ったある日、まだ自分の部屋にこもっている私のところに、流石に一ヶ月も学校を休んでいるのを心配したのか、クラスメイトがきた。
「ねぇ、××ちゃん。学校行こう?」
「そうだよ。今、化学の授業で実験しているんだ~。楽しいよ」
「一緒に、行かない?」
 全く話した事もないクラスメイトの女子達が、ドアの向こうから話しかけてくる。恐らく、クラスの話し合いで決まったのだろう。
「……、ごめん。まだ、行きたくないんだ……」
私は、クラスメイトが家まで来るという事態に申し訳なく思いながらも、素直に想いを伝えた。
「……。そっか……。じゃあ、また来るね」
「そうだね。……、じゃあまたね」
「バイバイ」
 すると、その子達はあっさりと諦めた。私が少しホッとしていると、ドア越しから小さな声でその子達が話しているのが聞こえてきた。

~続~

  • 小説
  • めっちゃ意味ありげで終わってしまった(笑)
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