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文学少女(6)

「ねぇ、なんで出て来ないわけ?」
「私達、わざわざ来たのにね~」
「大体、目が見えないくらいでそんなに落ち込む事なくない?」
「あれなんじゃないの? 本が読めないからじゃん?」
「あ~!! 『本が唯一のオ・ト・モ・ダ・チ』だもんね~」
「ちょっと。それ酷くな~い?」
「ははははは」
 笑いながら話している、名前すら覚えていないクスメイトの会話に、私はただ黙っているしかなかった。ドアの近くからその子達の気配がなくなると、私は大声で泣いた。何故、一切関わった事のない子達にそんな事を言われないといけないのか。あんな奴等、いなくなれば良いのに……。その瞬間、芥川先生のあの名言が思い出された。
【周囲は醜い。自己も醜い。そしてそれを目のあたりに見て生きるのは苦しい】
芥川先生が「杜子春」や「河童」等を書いた理由が解った気がした。
 そんなことがあってから、部屋でじっとしていたら、段々死にたくてたまらなくなった。どうせ、私が死んでも誰も悲しまない。もう本を読む事も出来ないのだから、生きていても仕方がない……。そんな事を毎日考えるようになった。
 そんな或る日、ドアの向こうからこちらへ向かってくる足音が聞こえたかと思うと、私の部屋のドアが優しくノックされた。
「××ちゃん。ちょっと良い?」
その声は、中学の頃唯一仲の良かった女の子のものだった。
『なんで……』
そう思っていると、その子は
「おばちゃんから聞いた……。開けなくても良いから、話ししよう?」
と言った。
「……良いよ」
親友だったということもあり、私はとても久しぶりに人と話をすることにした。
「目、見えなくなったんだ……」
「……うん……」
「……」
「……ねぇ」
「んっ?」
「……私、もう死にたいよ……」
 やっと話せるという想いから、私はその子に心の底の本当の想いを打ち明けてしまっていた。
「……」
「……」
気まずい空気が流れ、耐えられなくなった私は何か話しだそうとした。
「……あっ、あの」
「♪~~」
「……えっ?」
 その時、その子が急に鼻歌を歌い始めた。聴いていると、それは私が好きなアーティストの曲だった。私は思わず、その曲に聴き入っていた。

~続~

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