乱視を無理に矯正するように
目の奥に緊張が走る。
焼きそばを握りつぶしてしまう程に
全身が強ばっている。
とん と肩を叩かれ、ビクッと振り返る
「相変わらずハルク並だね、そーいうとこ」
「やめてよ。ハルクじゃ別の怪人だろ?」
「…いるんだねぇ。こんな所にも」
「うん…しかも凄い数…」
「正義のヒーローやっちゃいますか?」
「ださい台詞だな。てか俺ら正義のヒーローって感じじゃないでしょ。」
「悪vs悪?」
「言えてるかも。」
握りつぶした焼きそばをゴミ箱に投げ、
自分の体が舌から順に蛇化していく感覚に包まれる。
これがなんとも気味が悪い。
自分でも好きになれないのだ。
「いこうか?」
慣れない狐顔に顔を引き攣らせながら
隣の化け物はニタリと笑った。
「なんでお祭りで悪怪狩りなんてしなくちゃいけねーんだろーね。」
「見て見ぬふりすりゃよかったね。俺らほんとワーカホリックだなぁ。」
人混みをすり抜けながら、鎌鼬やら人魂やらを次々に捕まえる。
狩るとは言ってもとっ捕まえることがほとんどだ。
「ふぅ。とりあえずこんな所かな。」
「おい…おい。」
「なんだよ」
「なんか今日…変じゃないか?」
「え?」
「土日のお祭りだからかな…『もっと来る』気がする。」
「もっと?」
小さくなった網の中でモゴモゴとうごめく魑魅魍魎に目をやる。小型妖怪は妖気で閉じ込めるのが大抵だ。
「ぬらりひょんの臭いがした。それから小豆洗い。酒呑童子…」
「嘘だぁ。お祭りだから変な感覚するだけだじゃない?」
「そうかな…」
ぐふっ…!
「い、いってぇぇええ!」
「え?どうした?」
「やっぱ、いるね。今パンチくらった。」
「やっぱり?!待って、すぐ本部に連絡するから」
「いいよ、それより鬼呼んで、あいつも今日非番だろ?」
「毒が回ったらどうすんだよ!…もしもし!?オロチがなんかにやられました。腹です。少し裂けてます。」
キュービの緊張気味の言葉尻から、今年の夏祭りはちょっとめんどうなことになりそうだと、痺れる腹部を押さえながら、逆に冷静だった。