「陰陽師、これは何というものなのだ?」
「それ? それは“りんご飴”ってやつだよ。食べてみるかい?」
「いいのか? 売り物らしいぞ。勝手にとっていっては悪いのではないか?」
「お金は払うさ。……ほら、これ」
「……。どうも」
女の子は陰陽師からりんご飴を受け取るとしげしげと眺めはじめた。
「陰陽師、……これ本当に食べれるのか?」
こつこつ、とりんご飴の表面を軽くたたくと、女の子は困惑したように尋ねてくる。
女の子は棒に刺さった赤くて硬い球体が食べられることを知らない。
「食べられる、……というより飴だから舐める、かな。おいしいよ?」
陰陽師は自分の分の代金をカウンターの上に置くと、台からりんご飴を一本抜き取り自分の口へと運んだ。
「中には姫りんご。ほら」
舐めるのではなく齧ったそれの中身を見せる。陰陽師の歯形に沿って、白い果肉が覗いていた。
それを見て女の子も意を決したようにりんご飴を舐め始める。
「……甘い」
「君の時代では結構貴重なんだっけ、甘味って」
「貴族はともかく、庶民がたやすく口にできるものではなかった」
「よかったね」
「うむ、よかった。感謝する」
「どういたしまして」