「無理だ」
「え?」
不意に、ナハツェがキハの提案を遮った。
「このメンバーじゃどうあがいても無理だろ。目立ちすぎる。それに…”マスター”の許可取れると思う?」
「…」
現実を突きつけられて、一同沈黙する。
「隠匿されるべき”魔術”の最上級の産物である俺たち”使い魔”が、堂々と人の多いところに出られると思う? 一般人にバレたら即消滅させられるかもだし」
「確かにそうだけど…」
「もーナハツェは頭固いな~」
それでもキハはのんきそうだった。
「…当たり前のことだ」
ナハツェは冷たく呟く。
…確かに、この世界でずっとその存在を隠されてきた”魔術”の一端が、一般社会の日の目を見てしまうことは禁忌中の禁忌だ。
そして数多ある魔術の中でも、最上級の”使役精術”によって創られた”使い魔”は、一般人の前に正体をあらわにしてはならないのだ。
特に”使い魔”の中でも、最高クラスである人のカタチをしたもの―ここにいるメンバーは、人間のカタチをしているとはいえ、普通の人間と区別するために翼や角、獣の耳を与えられている。
耳や角はどうにか隠せても、翼は隠すのが難しく、うっかり人間でないことがバレれれば自らの主人である”魔術師”に、消滅させられるかもしれないし、他の魔術師に狩られてしまうかもしれない。
だから、使い魔だけで人の多い場所に行くのはかなり危険でできたら避けるべきことなのは、使い魔たちの暗黙の了解だった。
まぁでも楽しいことが好きなキハなら行きたがるのも無理はないか。
「だからキハ、これは諦めろ」
「え~やだみんなと行きたいぃ~」
諦めろ、と言われても、キハは1人駄々をこね続ける。
「…あ、でも、行こうと思えば行けるよ」
ぽつっ、と何かを思いついたようにピシェスが呟いた。