ここは、皆さんご存知、高崎有栖の自室である。今回もまた例によって例の如く、前橋つくばが窓から入り込んできた。虫かごを抱えている。
「ハローアリスちゃん!面白いもの持ってきたよ!」
「だからその呼び方止めてってばつーさん」
「思いっきりブーメランだよ。大体君みたいな最早可憐とさえ言える少年を格好いい呼び方なんてできるわけ無いでしょう?」
「な、何だとぅ!」
「君、男子に告白された回数が女子にされたそれより多いって噂あったよね。あれホント?」
「うっ……。と、とにかく!早く本題入ろう、面白いものって何?」
「ああ、それなんだけどね……」
そう言ってつくばは虫かごを有栖の前に突き出した。中には、トカゲが一匹だけ入っている。
「これ!すごくない?」
「何これ……作り物……?」
「いいやよく見て。ちゃんと生きてるでしょ?」
「いや、それは分かるんだけどさ……。私、うずくまって頭抱えて考え事してるようなポーズする爬虫類は初めて見たよ……」
「そうでしょー?見つけたから捕まえてきたの!面白いじゃない」
と、トカゲが二人の方を、まるで助けを求めるかのようにじっと見た。
「む、こっち見てら。何だ何だ、私たちが人間、しかも不思議な能力を持ったヤバい奴らと知っての狼藉か?」
「止めなつーさん。トカゲ相手に喧嘩売ってちゃ別の意味でヤバい奴だよ。きっと何かあるんだ。……そうだ!」
有栖は机上からインク壺と紙を一枚持って来て、床に置き、その上にトカゲを放した。というか有栖さん、インク壺なんて持ってるのね。
「さあトカゲ氏。何か思うところがあるなら、筆談で教えておくんなし」
「アリスちゃんもアリスちゃんでなかなかヤバい奴のムーブメントだよ」
「喧嘩売るよかマシでしょ!」
そうしているうちに、トカゲが紙の上をインクを付けた身体で這いずり回り、その軌跡は汚いながらも文字の形をなしていた。