呼ばれた自分の名に、条件反射で下に視線を落とす。そこには、数時間前に別れた見知った顔があった。
「どうして……」
思わず零れてしまった自分の声をそこへ置き去りにし、慌てて2階から降りる。着慣れないドレスで動きにくいため、怪我をしないよう気をつけながら。
扉を開くと、向かいの道には楽しそうな歌名。
「瑛瑠!お土産持ってきた!」
そしてその両側には、顔を顰めた英人と望がいた。
「歌名、夜だぞ」
「ご近所迷惑だよ」
3人の手には、何やらたくさんの戦利品が抱えられている。瑛瑠がお願いしたお土産とは、土産話ではなかったか。
「瑛瑠さん、まだ起きていてよかった。これ渡せなかったらどうしようかと思って。花火終わるまでの猶予しかなかったから、ちょっと焦っちゃった」
にこにこしている望の顔を見て、別れる前に言われたことがよみがえる。望の真意はいつだって優しかった。
いまだに状況がのみ込めずに呆然としている瑛瑠。その後ろから、わかりにくくもいつもよりは断然楽しそうな声が聞こえてきた。
「上がっていってください。皆さんの付き人へは、私が連絡しておきますよ」
効果音がつきそうなくらい顔を輝かせた歌名は、真っ先にありがとうございます!と言う。本当に、懐に入るのがうまい。はじめは申し訳なさそうにしていた英人と望も、チャールズと歌名の違う方向からの押しに結局は折れてしまった。
誰かを自分の家にあげるなんて―正しくは自分の家ではないけれど―これまでにない経験で、とてもどきどきしていた。と同時に、この3人は自分にとって大切な人たちなのだと不意に感じ、胸が熱くなる。まさか、帰りにお土産まで持ってきてくれるとは、思いもしなかった。
部屋に3人を通す際、1番最後に入ったのは英人だった。
その時、一瞬目が合った。
彼は、ふっと微笑ったと思ったら、視線を外し、そして、一言囁いた。
瑛瑠が耐え切れず、静かに、それでも思いっきり彼の背中をたたいたのは、また別のお話。