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桜木ノア #09 8月某日

『諦められるなら私はこんなに苦しんでない!』
そう悲痛に叫んだ桜木ノアの前で、冷静になれなかった俺がバカなのは重々承知している。ただこの時の俺は、問題を一問諦めて、ついでにやる気も失くしただけなのにそこまで怒られる理由はないと、思ってしまったのだった。
「……こんなに苦しんでないって、たかが勉強の話だろ。分からない問題くらいあって当然だろ。何を勝手に苦しんでるんだよ」
「勝手に……? 勝手にって言った?」
「そうだよ、勝手だろ?」
「じゃあ、君は私が好き好んで苦しんでると思ってるの!?」
「誰もそうは言ってないだろ!」
「もしも、もしも諦められたなら……私がこれまで抱えてきた傷の意味は!? 私が何のためにここまでやってきたと思ってるの!?」
バンッと、桜木ノアは机を叩いた。
その音か、机を叩いた際の痛みか、何が桜木を冷静にさせたかは分からないが、彼女は冷静さを取り戻したようだった。
「……ごめん。カッとなって」
「……いや、俺も、悪かった」
「……でも、私は、やっぱり諦めないよ」
前を見据えて、桜木は言った。
「私は、可哀想な女の子になんてならないよ」

  • 桜木ノア
  • 爆発と収束
  • 次回は8/26更新予定
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