社会資料室に篭っていた桜木は涙を流していた。
目の前で女子が涙を流しているというのに俺は何もできない。しばらくお互いに固まったままだった。
「……ごめん」
沈黙を破ったのは震え声の謝罪だった。
「……みんな心配してたぞ」
「……あ」
桜木は一段と申し訳なさそうな顔をして
「みんなのこと、忘れてた」
と言った。
正直、怒りたくもなったが、泣いている女子をさらに泣かせる趣味はない。ここはノータッチでいくことにした。いや、俺にはノータッチにしておくことしかできない。桜木がなぜここに逃げ込んできたのか、なぜ泣いていたのか、なんと声をかけていいのか、何も知らないのだから。
「ごめんね。自分のことでいっぱいいっぱいで」
啜り泣き程度に落ち着いてきたらしい桜木は、どこから話したものかと思案する表情を見せた。
「……聞いてくれる?」
「この状況で人を見捨てるほど薄情じゃない」
あはは、と笑うよりはそう言って。
桜木ノアは打ち明けた。
意味わからないかもしれないけど、と前置きして。
「私はね、日常的に日常生活ができないの」