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あゐうゑ

 あが東京に出て、軍人になったころ、姉のゐは高利貸しに嫁いだ。
 ゐが第一子、ゑを生んだ年、あは少将になった。
 少将になったあは甥のゑの顔を見るため、暮れに里帰りした。
 田舎のひとたちは、久しぶりに会うあが何を言っているのか、まったくわからなかった。
 あは、国をまとめるには共通の言葉が必要なのですと説明したが、もちろん通じなかった。
 やがて国は足なみをそろえ、戦勝国となった。
 もう、あの言葉がわからないという者はぜんたいのななわりくらいだった。
 あの言葉がみんなに通じるようになったころ、国は敗戦した。
 ゑはがっこうで名前を書くときは誰に教わったわけでもなく、えと書くようになった。

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