夏が近づいて、日が出ている時間が長くなったとしても、夕方の6時を超えるとあたりはそれなりに暗い。
特にこの街は田舎だから、中心部はともかく駅前なんかから離れてしまえば、街灯は少なく夜は暗い。
別にこの街の治安は悪くはないから平気なんだけど。
それでも人通りは少ないから、小学校の頃は大人たちからは気を付けてとよく言われる。
まぁ、夜道じゃ何が起きるか分からないけど。
物騒なことが起こるとは限らないし、”普通の人が知らないモノ”が、涼しい顔で本領発揮しているかもしれない。
でも、何が起きても別にわたしは気にすることはないと思う。
そもそも、最近かなり現実離れしたことが起きてるし。
しょうがない、”こういうところ”に住んでいるんだもん、諦めるしかない。
そう思った時、誰かとすれ違った。
何気なく振り向くと見覚えのある後ろ姿が見えた。
「―黎?」
思わずその名を呟いたと同時に、その人がちらとこっちを見た。
「…あ、」
だが彼はこっちをチラ見しただけで、そのまま歩き去って行った。
「…」
珍しく知り合いとそこらへんで会えたのに、特に何も起きなくってちょっと虚しかった。
だが彼の姿に、ふと違和感を感じた。
―いつもはリュック持ってるのに、手ぶらで歩いてる。
…いや、そこまでおかしくないかな? わたしはそう呟くと、もう結構暗いな、と家路を急いだ。