月華蒼茫たる宵闇,照らさるるは想ひ人。
今日も今日とて月の光が眩しい。色が抜けるほど白い肌、明瞭に鎖骨をなぞる影、艶やかな首筋、その光を一身に受けた佳子もまた眩しく、そして恍惚だった。
ベランダで月を見上げていた佳子は、瞬きを忘れてしまうほど優雅に髪をほどいた。夜の闇なんかよりずっと黒く、それでいて眩い髪がぱらぱらと零れる。
裸足が、闇に美しい輪郭を象った。
「ねぇ、沙夜。こっちへおいでよ」
振り向いた佳子は、月を背にして微笑む。影の落ちた姿でさえ崇高で、高貴だ。
清廉な月の下に居るのは、佳子だけで十分だ。
「嫌よ。……佳子、そろそろ月光浴はいいでしょう。こっちへ来て」
すると佳子は一転、煽情的に微笑んだ。
この疼きを非難される謂れはない。
佳子は誘われるまま、月の光の届かない闇へ溺れた。