「私はここでどうにか生きてやるつもりだから」
4月。彼女は自己紹介の際に、そんな決意表明をしていた。
あの時はまるで理解出来なかったそのセリフも、今なら分かる気がする。
彼女は今も戦っている。
人から理解されにくいあれこれと。
けれど、電話越しに聞こえる彼女の声は、文化祭前後と比べれば随分柔らかくなっていて、安心した。
……さて、白状しよう。
俺は、桜木ノアのことが、好きになっていた。
そんなはずない、と自分の心の中を何度も確かめたのだが、桜木の存在が俺から離れることはなかった。『無理だ、勝てない』そう思って俺はこの気持ちを素直に認めることにした。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
大事なのは桜木ノアという女子生徒が、今も、そしてこれからも、自分の中に折り合いがつくまで戦っているということだ。
そしてそれを、ほんの少しであろうと知っている人がいるということだ。
桜木ノアという女子の存在が、心の中に残っていることを切に願う。
(終)