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憧れと独白と傾聴とその先 #1

 憧憬__それは、憧れること。
 思慕__それは、思い慕うこと。
 あのときこうしていれば良かった、なんて思うことはないけれど、あのときこうしていたら何か変わっていたのかな、そう思うことは、たまにある。でもきっと、何も変わらないのだとも思う。私たちは、そういう関係だったから。
「……い。……てますか、せんぱい。もう、聞いてますか、先輩!」
 ふっと映像が途切れる。目の前に口を尖らせた後輩が見えた。
「ぼーっとして。私の話、聞いていませんでしたよね?」
「ごめんごめん。ちょっと考え事をね」
 我ながらありきたりな面白くない回答だったなと、思わず苦笑してしまう。
 この子の話が引き金になったのかと、不意に思う。再生されていたのは、ずっと閉じ込めていた思い出だった。
 すると、妙なところで察しのいい後輩が、まっすぐに瞳をかち合わせてくる。
「何を考えていたんですか」
 これは、逃がしてもらえない目だ。
 そう悟った私は、またもや苦笑する羽目になる。この子がまいた種なのだから、甘んじて私の昔話に付き合ってもらおうか。

  • 憧れと独白と傾聴とその先
  • お久しぶりです。
  • ショートストーリーにお付き合いくださいな。
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