前回の続きだが、能力に頼ることにした那由多。すぐに変化が現れた。
彼女の両腕、二の腕の真ん中より先の方全体を覆うように、西洋の鎧に付属する手甲が出現した。ただ一つ奇妙な点があるとすれば、手首より先、本来手の甲を守る金属板やグローブになっているであろう部分が、手の全体を覆うようについた内側にやや湾曲した長さ50cmほどの刃になっていた点だろう。
『ホラ、刃ハ提供シタシ、彼奴ニ勝ツ力ハ君自身ガ持ッテル。後ハ君ノ好キニシナ』
彼女の能力が楽しそうに言う。
(ありがとう。今一番欲しかったものをくれた。……しかし、これじゃあ蝗(グラスホッパー)というより、蟷螂(マンティス)だよなぁ……)
「んん?何だァそれは?武器か?何もない所から出しちゃうの。うわすげ。しかし無意味だな。今の俺にはどんな攻撃も通らない!」
そう言って男は猛スピードで突っ込んできた。がしかし、那由多は、
「ああ、確かに『無意味だ』という意見に対しては賛成だよ……。しかし、『お前の防御力が』という意味だけどな」
跳ね飛ばされたアスファルトの欠片を弾き返し、更に男が繰り出した拳を懐に入り込むようにして躱し、両手の刃で思い切り斬りつけた。
「ボクの刃は身体を斬らない。お前の『記憶』だけを斬る!」
「ガッ……!」
「うおおおおぉぉおおらあぁぁああぁあ!!!」
能力生命体の具現化によるブラッシュアップを果たした彼女の能力による幾度もの斬撃は、プラスマイナスに拘らず男の記憶を切り裂き引き裂き掻き回し、その精神的ショックは男を気絶させるには充分過ぎた。
勢いを失い倒れ込んでくる男の身体の前で、那由多はしかし攻撃の手を休めなかった。
両腕の変形手甲を消し、両足を前後に配置し爪先を右に向け深く腰を落とし右手を固く握りその手を左手で包み込み、ぐん、と男に背中を向けるように上半身を捻り、
「ダメ押し、だぁッ!!!」
上半身を戻す勢いで男の胸部に拳を叩き込んだ。