やりたい楽器が決まっていた。そして、敬語がちゃんと使えた。関連性のないことのようだけれど、その二つのおかげで上手く流れに乗れたのだと思っている。
「中学生になると、なんだかいきなり上下関係みたいなものが生まれるじゃない?私は敬語が使えた。普段使わなかった子よりも自然に使えた。そして、可愛い後輩を演じるのが上手だったのかなって、今だから思う。もちろん、あの頃はそんな下心を持って先輩と関わっていたわけでは決してないのだけれど」
目の前の後輩がくすくすと笑う。
「わかります。私もそういうタイプでした」
「そうだね、私も涼花のことは可愛い後輩だと思ってる」
ありがとうございますと笑った。
「そう、それでね、私にはやりたい楽器があった。一貫していたんだよね。そのおかげで迷いもなかったし、意思表示がしっかりできた。そして、先輩に目をかけてもらえるようになったんだな」
だからやはり、やりたい楽器が決まっていたことと、敬語が使えたことで、うまく流れに乗れたのだと思う。
涼花の澄んだ目とぶつかる。
「部活において何の問題もなかったのは、その先輩の存在が大きかった、ということですか」