私は少しだけ笑って、話を再開する。
「それからも私たちは、先輩と後輩だった。それ以上でもそれ以下でもない。色々思うことはあったと思うんだ、中学生だったしね。でも、今はもう覚えていないくらいには閉じ込めすぎていた」
涼花は何も言わない。
「あれは、先輩が引退するときだったかな。私、泣いちゃったんだよね。涼花もよく知っていると思うけど、私はとても涙もろいから」
「そうですね、知っています。思い浮かびますよ、先輩が泣いているところ」
優しく微笑むなあなんて、ふと思った。
「恥ずかしいなあ……そう、そのときにね、先輩が、腕を広げて、おいでって」
そう、おいでって言ってくれた。
涼花は目を見開いた。
「……先輩、腕に飛び込んだんですか……?」
飛び込めたら、何か変わっていたのかな。今でもそう考えることがある。
私はゆるく首を振った。
「できなかった。最後まで私は後輩だったし、先輩は先輩だった。私たちはずっと、先輩と後輩だった」
飛び込めたなら、きっとそれは少女マンガだ。
「先輩に憧れていた。それは、憧憬であって思慕であって聖域だった。それをある人は恋というのかもしれないけれど」