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いい女ばっか来るラーメン店

「外国にも狐の面ってあるのかな」
 なかなかのイケメンが連れの女にきいた。
「検索すれば」
 素っ気なくこたえた女は、目のぱっちりとした、鼻筋の通った、色白の、立派なバストの、つまりいい女だった。
「それが面倒だからきいたんだよ」
 二人とも、シメのラーメンを食べ終え、いい時間を過ごしている。
 わたしは熱々のもつ煮込みを口に運び、はふはふしながらテレビに視線を移した。
「アジアはわかんないけど、ヨーロッパでは狐はずるい動物ってイメージなんでしょ。日本では稲の害獣である鼠を食べてくれる益獣として認められてるから神にもなってるわけじゃない」
「稲荷大明神は狐じゃないぜ。狐は稲荷大明神の使いだ」
「原始信仰では狐が神なんだって」
 へーえ。テレビより面白いのでついきき耳を立ててしまう。
「狐の面は稲荷信仰から来てるわけだな……お会計」
 ほろ酔い加減で店を出ると、さっきのカップルが正面に立っていた。狐の面をかぶって。わたしは言った。
「美男美女だと思ったら狐が化けてたんだね」
「当たり前でしょ。こんなさびれたラーメン屋にわたしみたいないい女が来るわけないじゃない」
 そう言って女が笑い声をあげた。なぜか、不快な感じはしなかった。
「おにいさん、よかったら、俺たちの店に来なよ。俺たちこの先でスナックやってるんだ」
 一瞬好奇心に駆られたが、明日のことを考えた。
「遠慮しとくよ、狐が経営者じゃ何を飲まされるかわかったもんじゃない」
 すると二人は(二匹か?)顔を見合わせユニゾンで、「そう、残念だ」と言って去った。
 わたしは帰路についた、はずだった。
 暗闇が広がっていた。
 振り返ってみたが、ラーメン店はどこにもなかった。

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