「おぉ、よくぞいらっしゃいました。ささ、な…」
出迎えの挨拶を無視するように、赤毛の少女は屋敷の重い扉を押し開けた。
「あぁ、そんなに急がなくても…」
出迎えに来た屋敷の主は慌てて制止したが、少女はそれを気にも留めず、そのままズカズカと中へ入っていく。
屋敷の主人は早歩きする少女の後を追いかけるが、少女は振り向くことなくこう呟いた。
「…別に、まだ依頼を受けるとは言っていないのだけど」
「えぇ、それは分かっています。ただわざわざこんな所まで…」
屋敷の主はつらつらと長話を始めたが、少女は気にすることなく歩き続けた。
だから屋敷の広間に辿り着くまではあっという間だった。
「…あ、とりあえずどうぞお座りください。具体的な話は座ってしましょう」
いつの間にか広間に辿り着いていることに気付いた主人は、慌てて少女に椅子を勧め、給仕に茶を出すよう命じた。
だが少女は座るわけでもなく、ただ広間を黙って見まわしていた。
「…では依頼の話を。ここ暫く、領内では家畜の不審死が相次いでおります。最初はそこいらにいる鹿なんかが死んでいたりしたのですが、やがて家畜にも被害が出るようになり…」
少女は主人の話を聞き流しながら、大きな広間を見渡していた。
今までこういう貴族の屋敷に立ち入ることはあったが、ここまで広いのは初めてかもしれない。
「…調査したところ、やはり精霊の仕業のようです。しかも、土着のモノではなく、外来のモノで、かなり強力なモノらしく…」
だだっ広い広間を見まわしていると、少女の目に、何かが止まった。
それは広間の奥の方、カーテンの近く…
「配下の魔術師や外部の魔術師に対応を依頼しましたが、誰一人とて歯が立たず…て、聞いています?」
もしや自分の話を聞いていないんじゃないかと、屋敷の主人は少女の顔を覗き込む。
「…あれは」
屋敷の主人の質問には答えず、少女は広間の隅を指差した。