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冬至

あれは、いつ頃の事だっただろうか。まだ京都に住んでいたから恐らく小学校に上がる前の話だろう。私には毎日のように遊んでいた男の子がいた気がする。着物を着て狐のお面をかぶった男の子。こんな話をすると友達はみんな「夢だよ。今どきそんな恰好してる子いないよー」という。両親も覚えていないみたいだ。でも、私は覚えてる。あの夕焼けを。あの言葉を。
※※※
「あかりー?なにやってるの?そっちじゃないよ!こっち!こっち!!」
「あかり、本当に京都住んでたことあるのー?迷子にならないでねー?」
「ごめん。ごめん。住んでたことあるって言っても小学校上がるまでだから覚えてるわけないじゃんっ!」
「でもさ、祇園の街並みってあかりの夢にでてきたっていう狐のお面の男の子とか出てきそうじゃない?」
ゆっこが笑いながら言った。
「確かに・・・!!」
「京都はやっぱりあやかしとか似合うよねー!」
「だから、夢じゃないってばっ!」
※※※
『今日は一年で一番夜が長い日なんだよ。京の都には夜が似合う。』 
何もないところで躓いて転んで泣きじゃくる私の前で男の子は唐突に言った。刻々と夜の色に染まっていく夕焼けに照らされた神社の鳥居。
『さあ、泣き止んで。転んだことで厄は払えた。きっとこの先良いことが起こるよ。ほらもう君は帰りな。』
※※※
「あかり!!!あぶない!!!!!!!車!!!!!」
ゆっこの声が耳の端っこで聞こえた時、私は急に強い力で後ろに引っ張られ歩道に倒れこんだ。
「どんくさいのは相変わらずだな。」
耳元で笑いを含んだ声がした。何処か懐かしいような声色で私は慌てて顔を上げようとした時、
「あかりー!!!大丈夫!?!?!?」
ゆっこ達が駆けて来るのが目の端に映った。気づいたら私を支えていた手は離れていた。去っていくその人は黒髪の着物姿だった。
(お礼が言えなかった・・・)
「あかり。大丈夫だった!?!?!?!」
「無事で良かったよぉ」
「ねえねえ!!!あの人かっこよかったね!!!」
「それな!!!背高くてめっちゃ着物似合ってたし!!!」
「ねえ、あかり。あの人狐のお面付けてたよ。」
ゆっこが言った。

暮れ行れ時のひんやりとした空気の中、夕陽を背景にぽつぽつと街に灯りが燈っていく。
今日は一年で一番夜が長い日。

  • 狐のお面
  • 初のショートストーリー
  • ご想像にお任せします。
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