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とある農家の仏壇前で

「おとう、これ被ってもいいの?」
小さな手は確実に狐のお面を指していた。
この家には、お盆になると仏壇に狐のお面を供える風習があった。
「ああ、いいぞ」
父親はそのお面を息子へ手渡した。きらきらと宝石以上に輝く目がそれへと向く。神物を扱うかのようにおそるおそる触っている。父親はふっと力を抜いて笑うと
「ほら、貸してみなさい」
と言って息子の顔が見えるように、顔の横にお面をつけた。
「どう? 似合ってる?」
「ああ、似合ってるよ。とても」
狐のお面の白色が、息子の消えてしまいそうなくらい白い肌によく合っていた。少年はくるくると嬉しそうに舞を決め、しばしば存在を確認するようにお面を触っていた。
しかし、屈託のない息子の笑顔と、凛々しく遠くを見る狐の顔が、どうしても対照的に見えてしまうのが父親にとっては悲しかった。
それは、息子の寿命が決して長くはないからであった。

……お稲荷様、俺らの稲は守らなくてもいい。お願いだから、息子を救ってください。

そう心の中で呟けば呟くほど、息子の嬉しそうな姿が霞んでいくのだった。

  • 狐のお面
  • お稲荷様は、穀物や農業の神様だったそうで。
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