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裸の王女

 むかし、ある王国に、とってもおしゃれな王女様がいた。
 トレンドはすべてキャッチし、また自らもトレンドを作り出すファッションアイコンになっているにもかかわらず、まだまだもの足りないなあ、なんて思っていたところに、世界各国を放浪して服飾ビジネスの勉強をしてきたという仕立て屋が現れた。
 仕立て屋が王女様にすすめたのは賢い者にしか見えない生地で作ったドレス。王女様はドレスが仕上がるとさっそくおひろめパレードを行った。
「王女様、裸だったね」
 パレードを見送ってから、息子がわたしにぼそりと言った。わたしは、「そうだな」と言って息子の手を引き帰路についた。
 十年後、息子は宮廷画家になった。息子は単に絵が上手いだけでなく、営業的な才能もあった。息子の名前は近隣諸国にたちまち知れ渡った。
 先日、久しぶりに息子が会いに来た。息子はわたしに、「何か描いて置いてくかい? 俺の絵なら、らくがきみたいなのでも売れるんだ」と冗談めかして言った。わたしはもちろん断った。台所で妻が舌打ちするのを息子もきいていたようだが、「気が向いたら、声をかけてよ」と言い残して帰った。
 たとえ気まぐれにでも、これから息子に絵を描いてもらうなんてことはないだろう。なぜならわたしは、息子の最高傑作をすでに所持しているからだ。
 裸の王女、というのがその絵のタイトルだ。
 下絵はわたしが描いたんだけどね。

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