「…こちらにございます」
雪に覆われた村外れ。この辺りを治める領主―あの屋敷の主人は、人気のない森の入り口で立ち止まった。
「…どうぞ先へお進みください、わたくしはここで見張っておきますから―何も知らない一般人に、魔術のことなど知られる訳にはいかないので」
そう言って屋敷の主人は少女らを促した。
「…ご案内どうも」
少女はすれ違いざまに屋敷の主人に言った。
”使い魔”もその後に続く。
…暫くの間、少女らは黙って新雪の中を進んでいたが、ある程度進んだ所で少女は立ち止まった。
「…あいつ、逃げたわね」
呟いて、少女は振り返る。
「…まぁ、あれでも貴族なのよね。貴族同士の覇権争いでいつ命を狙われるか分からないのに、ただの精霊に殺されるのは死んでも御免よね」
言い終えた後、少しの間沈黙が下りた。
が、すぐに思い出したように少女は言った。
「…そういえば、お前…名前は?」
”使い魔”はフッと顔を上げた。
「名前を知らなければ、何て呼べば良いのか分からないでしょう?」
少女はにこにこと笑いながら尋ねる。
暫しの間、”使い魔”は黙っていた―が、不意に口を開いた。
「…”ナハツェーラー”」
ふーん、と少女はうなずいた。
「あの魔術師らしいわね。自分が作ったモノに、”吸血鬼”の名前を与えるなんて」
「何か文句?」
間髪入れずにそう訊かれて、少女は笑いながらいいえ、と答えた。
「ただただ、あの人らしいと思っただけよ」
少女はそう言いながら、また歩き出した。