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他者も自分と同じような心を持っていると認識できるのは、他者を騙そうと考えた結果である。

 世のなかのほとんどの人は人魚姫に同情しているようだが、本当にかわいそうなのは人魚王子である。
 人魚王子なんて知らない?
 まあわたしも最近知ったばかり。
 人魚姫が人間の王子に近づくことができたのは、この人魚王子が奔走してくれたおかげなのだ。
 小娘一人の浅知恵では、人間の王子と恋愛することなど不可能であったろう。
 もちろん人魚王子は人魚姫を愛していた。愛していたからこそ人魚姫の幸せを願ったのだ。
 なんと奥ゆかしい。
 人魚姫は美しく泡となって消えたが、人魚王子は人魚姫の恋愛を成就させることもできず、当たり前だが自分自身の恋もかなわず、おのれの不甲斐なさを呪いながら生き、高齢者福祉施設で明け方、誰にも看取られずに死んだ。生涯独身だった。
 この話を知ったわたしは人魚姫を憎む。
 こういう女がいちばんたちが悪い。
 どうして海の中の世界で充足していられなかったのか。
 みんな忘れないでほしい。人魚王子がいたことを。
 いや、べつに忘れてもいいけどね。

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