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河童にさらわれた話(前編)

 小説投稿サイトをスクロールしてたら、『本気で作家を目指す女子高生の集い』という企画が目にとまった。
 水泳部を引退してからとくに目標もなくだらだら過ごしていたわたしはこれだと思った。
 小説を書いたことはないが読むのは好きなほうだ。
 企画主の小説を読んでみた。
 本気で作家を目指すだけあってやはり上手い。
 初心者の作品なんかボロクソにけなされておしまいだったりして。
 同性同士の集まりだから派閥みたいなのができるかもだし。
 でもこれきっかけでデビューできるくらいのレベルになるってことも。
 とりあえず書いてみた。

 あなたは女子高生、校内の水泳大会に向け、市民プールでこっそり練習することにする。あなたはおとなしいが負けず嫌いで、かつ、努力しているのをひとに見られたくないタイプ。
 入念に準備運動をし、水に静かに入る。息を整え、背泳ぎを始めようとする。すると、監視員が笛を鳴らす。
「ちょっと君!」
 自分のことのようである。あなたは怪訝な表情で監視員を見返す。
「今日は背泳ぎ禁止デー!!」
 いつものあなたなら、何それ、と思いながらもしたがうのだが、今朝お母さんとけんかしてむしゃくしゃしていたのと、夏の解放感から、無視して背泳ぎを再開する。ターンしようとしたところで、あなたは排水口に引きずり込まれ、意識を失う。
 ひんやりとした空気。あなたは湿った岩の上にいる。身体を起こす。暗闇に目が慣れると、奥に何かがいるのがわかる。
「おはよう」
「……ここは?」
「わたしの別荘だ」
「あなたは?」
「わたしは大山椒魚だ」
「ここから出たいんですけど」
「無理だ。出口はわたしがふさいでいる」
「出してください」
「無理だ」
「どうして?」
「お前は若くて美しく、健康だからだ。手元に置いておきたい」
 あなたは立ち上がり、大山椒魚をどかそうと試みるが、びくともしない。
 一か月が過ぎた。あなたの命は終わりに近づいている。
「怒っているか?」
 大山椒魚がきいた。
「……怒ってなんかいない……怒ったら……自分との関わりができてしまう……わたしとあなたは、何の関係もない」
 あなたはこときれる。大山椒魚が、さめざめと泣く。

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