「コイって魚はいるじゃん。アイって魚はいないのかな」
窓から外を見ながら彼女は言う。
「アイという生きものはいない」
彼女の背中に僕は言う。
「いるかも……また雨だ……ねえ雨好きなんだよね」
「好きだね」
彼女を後ろから抱きしめながら僕は言う。
「雨好きなひとって変わってるんだって」
「君を好きなひとも変わってるんだろう」
「それはふつうのひと」
僕は彼女のいたんだ髪に鼻をうずめて目を閉じ、明日はイカスミのパスタを作ろうと考え調理のシミュレーションを試みるがパスタの映像はいつの間にかアイという魚が清流を泳ぐ姿に変わってしまう。
「洗濯ものが乾かないんだよね」
「……愛してるよ」
「いつも言ってくれるね」
「愛してるよ」