私の隣に腰掛けたその人は不思議な話を始めた。「優しさは、ほどほどが1番さ。君もそう思うだろう?今そう思っているんじゃないか?もしも」
そこまで言って立ち上がった。歩く先には自動販売機が見える。
何を買ったのかは見えない。
「もしも、君がある人に振られたとしよう。彼は告白する前からすごく優しい人だった」
ガシャン。何かが自動販売機から出てきた。
「振られた後も、今まで通りに接してくれる。
いいや、今まで以上に優しくしてくれる。自分が困っていたら声をかけてくれる。他の女の子にはそんなことまで手伝わないのに」
私に向かって缶を投げた。落としそうになりながらキャッチする。缶コーヒーだった。
「君は正直、彼のことを忘れられていない。なのに優しくされてしまう。・・・飲んでくれて構わないよ。」
プルタブを引いて、コーヒーを飲んだ。苦い。
「少し君には早かったかな。ええと、本題に戻るよ。そう、君は優しくされてしまうんだ。このままじゃ、君は彼のことが?」
「・・・諦められない。」
「そうだよな。だから優しさはほどほどでいいんだ。君は今も彼のことを考えているのだろう?」悔しいけどその通りだ。ここまでその人が話した内容は、全て私に起きたことだった。
お礼を言わなくちゃ。顔を上げると、その人はもういなかった。缶コーヒーはまだ残っている。全部飲んだら、少し大人に近づくのかなと思った。