私が少しメロディを奏でるだけで
涙を流して喜んでくれる人達がいる。
私が居酒屋であの歌を口ずさめば
コインを投げてくれる人達がいる。
サーカスの中で一番歌がうまかったから。
ただそれだけのことなのに
なぜこんなにちやほやされる?
私は聞かせたいわけではないのに
なぜ歌うだけで拍手が起こる?
本当は、誰にも聞かれたくなかった。
私がメロディに心をのせて歌っているところは
誰にも覗かれたくない。
心を覗かれるのはなによりも苦しい事だから。
私が1人になれるのは
心の中だけのはずだったのに。
それでも私はこのテントの中で唄う。
埃と蜘蛛の巣で霧のかかったテントで。
私の心は
貴方に届いていますか?
そのために歌っているのだから。
私が唄を聞かせたいのは
どこかにいる貴方だけ。
それでも私は拍手をもらう。
この大きな拍手だけでも
貴方に届いていればいいと願いながら。