ぼくがひきだしを開けるとき、かた手で心を鷲づかんで、小指から順番に握りしめていくような鼓動がかけ巡る。小さいときからずっとそう。いつも、年がかわるからとお母さんに言われて、ラクガキだらけの棚のひきだしを綺麗にする。断捨離、と言えばそれまで。でも捨てるものを入れる袋がいっぱいになっていくたびに、底をつかんでひっくり返したくなる。考えるだけでお母さんの叱る声が聞こえるから、絶対にしないけど。
綺麗にしてからすこしたつと、ひきだしに何をしまっておいたのか、ぼくは忘れてしまう。ひきだしは宇宙。どこかの学者さんみたいに星のなまえを全ておぼえられる気がしない。それと同じように、ひきだしの中にあるもの一つ一つの場所を、頭のなかでぽわぽわ浮かべることができない。
だからこそぼくは、ひきだしの中にある…例えばあの子からの手紙や、どこでまちがったのかわからない40点の答案用紙を、少しでも大切にしたいきもちといっしょに今日も眠る。