あの後、念の為に更に何回か実験を繰り返した結果、一つの法則に行き着いた。それは、『口裂け女は道なりにしか進めない』ということだ。つまり、塀を乗り越えたり、生け垣を突き破ったりは出来ないし、横断歩道や交差点でしか道路を渡れない、ということだ。そういうことなら、もはやあれは脅威ではない。ルート取りをほんのちょっと気を付けて、道無き道を逃げ続ければ、相手がたとえ自動車並みの速度で追いかけて来ようと、余裕が生まれてくる。
そういうわけで、へとへとになりながらも追いつかれるぎりぎりのところで、何とか我が家の敷地内に転がり込むことができた。
奴はこちらには入って来ないで、表情を怒りに歪ませながらこちらをじっと見ている。ただでさえ恐ろしい顔が、SANチェック物になっている。
「これで終わりだ、消え去れ化け物!『ポマードポマードポマード』!」
退治するための呪文を唱えると、あれだけ執念深かった化け物は、あっさりとどこかへ消えてしまった。
………さて、最初に投げた鞄は、どうやって回収しようか。まあそれは、後で考えよう。