「…中止になった最後の公演をしたい」
目の前の1人の少女は、力強く言った。
「本当に、それで良いのかい?」
これで確定させちゃったら後には戻れないよ?とわたしは尋ねる。
「いいの、これがわたしの叶えたい願いだから」
少女は毅然と答えた。
「ふーん、そうなの」
じゃぁ分かった、とわたしは答えて、1つ指を鳴らした。
すると、宙に1冊の軽そうな本が現れた。
落ちてきた本を手で受け止めてから、わたしは少女にそれを手渡した。
「はい。ご注文の品だよ」
少女は作られたばかりのマジックアイテムを恐る恐る手に取った。
「…これ、どうやって使うんです?」
少女は本をパラパラしながら呟く。
「そんなの、わたしにも分からないけど?」
「え」
わたしの回答に、少女はフリーズした。
「…まぁ、分からないって言っても、そのマジックアイテムで魔法を使う方法とか、使える魔法の種類が分からない程度だからね。変身機能は念じれば使えるってのは分かってるでしょ」
相手が勘違いしないように説明したが、少女は呆然としたままだった。
「…とりあえず、色々と試してみると良い。どんな魔法が使えるのか、どうやったら魔法が使えるのか」
キミの望みを叶えられる魔法が使えることは確かなんだから、とわたしは諭した。
…暫くの間、少女は手の中のマジックアイテムを眺めていたがふと顔を上げた。
「…ありがとうございます」
そうかい、まぁ頑張って、とわたしが答えると、少女は一礼してその場から去っていった。
「…最後の公演をしたい、か」
少女の後ろ姿を見届けてから、わたしはぽつりと呟いた。
「やっぱり、人の願いは十人十色だね〜」
だから面白いんだけど、とわたしは1人笑う。
「そういや、この国では今日、願い事を短冊に書く行事があるんだっけ」
そんな夜に、短冊に書かれた願いを文字通り叶えてやるのも面白いかもしれない。
…なら。
わたしは日傘片手に地面を蹴り上げ、舞い上がった。
…どこかにいる、魔法使いの“原石”を探しに行くために。
待ってくれていた方、お待たせしました。
企画「魔法譚」の開幕です。
7月10日24時まで、のんびりと楽しみましょう!