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『祝福は似合わない』#3 Fin.

小さく笑って、私は絆創膏を持ってきた。
「諒さん、指出して」
 へそを曲げた子どものような面倒くささを持っている彼は、なかなか指を出さない。そんなに切れているわけではないと思うけれど、今の彼に必要なのは、休憩である。
「諒さん」
 語気を少し強めると、子どものような彼も子どもではないから引きを知っている。多少ぶすくれた顔ではあるが、おとなしく指を差し出す姿には笑みをこぼさずにいられない。
「この書類が悪いんだ。僕は悪くない」
「はいはい、誰も諒さんが悪いなんて思っていません」
 今だけは、仕事のことなんて忘れてしまえばいいのに。
 本当に、損をする人だと思う。これは、嫌味だ。
 なんて、吐き出しようのない燻りを、小さいながらも確実に育てながら絆創膏を巻く。彼が怪我をしたのは向かって右人差し指、つまりは彼の左手人差し指だった。
「なんだか指輪みたい」
 ちょっとだけ笑って吐いたこのセリフは、私なりの意地悪のつもりだった。一会社を背負う社長にあるまじきアクセサリーね、と。
 それが伝わっていないはずはないのだけれど、一瞬の間をおいて、彼はさらに不機嫌そうに睨み、口を開いた。
「言っておくけど、それはキミの役割じゃないからね」
 なんでもない休日昼下がり、そう言って書類整理に戻ってしまった彼に、私とコーヒーは置いてけぼりをくらった。

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