「田中ぁ、またなあ」
「おー、元気でな、平田ぁ」
駅前のロータリー、久々に会った友人と別れた田中は、ポケットに手を突っ込みながらいそいそと帰路に着いた。
桐崎町は不思議な町だ。確か町のキャッチコピーは「1日に四季のある町、桐崎町」みたいなだったか。何となく聞こえはいいが、よく良く考えればそんな町誰も住みたがるわけが無い。だから住民はみんなこの町に住み慣れた人達ばかりだ。こんな変な町に住み慣れたら、逆に他の町に慣れないのだ。出ていくのは友人の平田くらいのものだ。なんでもバンドを組んでよろしくやっているらしい。この間テレビにも出たらしいが田中の家にはテレビがなかった。
「……ん?」
いつも駅から帰る同じ道だが、行きつけのコンビニの斜向かいに見慣れない建物があった。
「喫茶パ〜プル」
看板にはそう書いてあった。こんな所にカフェが、いつの間に?あからさまに胡散臭すぎる。そう思いはしたが、田中は試しに入ってみることにした。
ドアを開けると、小気味良いベルの音と共にコーヒーのいい匂いが漂ってきた。サングラスを外してドア近くのカウンター席に座る。店内には誰もいない、と思ったらカウンターの奥から店員らしき人が……。
「……あ。」
忘れもしない、その顔だ。長い金髪にいつもの青いエプロン。
「やあ、田中。久しぶりだね」
「なんだお前かよ。通りで胡散臭い外観だと思った」
「なんだとはご挨拶だね。こんな美人が君との旧交を温めようと言うんだ、素直に喜び給えよ」
「なんだよその話し方、ますます胡散臭いぞ。しばらく会わないからもう死んじまったのかと思ってたぜ」
「ひどいなあ、勝手に殺さないでくれよ」
大賢者。初めて会った時こいつはそう名乗った。大賢者なんて言うと白ひげのローブに三角帽子、なんてのを思い浮かべるかもしれないがこいつはどう見てもそんな大賢者には見えなかった。グラビア雑誌ぐらいでしか見かけないような外国人女性みたいな風貌(しかしどの国かと言われるとさっぱり分からないのだ)で、それでいて母国語のように日本語を話す。名前も年齢も分からない。つまりとにかく胡散臭い。