「で、何の用だよ。わざわざこんな場所拵えるんには、俺に何か用があったんだろ?」
「ちゃんと生きてるかなって」
「じゃあその確認も済んだな、帰る」
「ちょっ、ちょっと待ちなよせっかちだな。話があるんだよ」
「……。」
仕方なく腰を下ろす。ほっとしたような顔をすると、大賢者は手元のコーヒーミルをガリガリやりだした。
「そういえば君はもう23なんだってね。大きくなったもんだ」
「昨日で24だ」
「おっとそれは失敬、なんせ久々だからね、誕生日なんて忘れてしまうよ」
「失礼なやつだ」
「20を越えた魔法使いは今のところ君と、あと一人だけだ。それになんだい、わたしがあげたアイテムもさっさと壊してしまったくせに」
「仕方ないだろ、うっかり踏んじまったんだよ。よくある事じゃないか」
「君がアレを壊した、と言った時、わたしの方がよっぽど焦ったものだよ」
「あの時の顔は傑作だったな」
「うるさい、全く図に乗っちゃって。どうやって君が生きてこられたのか不思議でたまらないんだよ」
「で、なんだ、今更それを聞きに来たってのか。なんでもないよ、俺はただ普通に生活してただけだ」
「だからそれがおかしいんだって言ってるじゃないか!あれから7年だよ、7年!一体どうやって……」
「待った」
田中は手を上げて大賢者の剣幕を押しとどめた。[いつもの]匂いだ。田中は椅子から静かに立ち上がった。大賢者はカウンターの向こうで何も言わずにまっすぐ立っている。
田中はドアの方を向いた、途端に窓ガラスをすり抜けて青白い狼のような化け物が店の中に飛び込んでくる。さながらフェンリルだ。