「おい田中、」
「うるさい黙ってろ」
そう言うと田中はフェンリルと目を合わせる。と、今にもこちらに飛びかかってきそうなフェンリルは動きをぴたり、と止めた。
「…………!!!」
横で大賢者がオーバーなリアクションをとっているが気にしない。ゆっくりと足をあげると、田中はフェンリルの脳天目掛けて真っ直ぐにかかとを振り下ろした。パァン!という音が響くと、フェンリルは粉が舞い上がるように散った。
「……で、何の話してたっけ?」
そう言いながら田中がまた椅子に腰かけると、大賢者は静かに、いつの間にか淹れていたコーヒーを差し出してきた。一口飲む。普通だ。
「……確かに君の『目を良くして欲しい』って願いは叶えたけどさ……」
「お陰でサングラスなしじゃ昼間は外歩けないんだぜ、迷惑してらあ」
「それにしてはそうそうに君のアイテムとしてあげたサングラスは割ってしまったけれどね。全く、私もとんでもない魔法使いを生んでしまったよ」
大賢者が頭を横に振る。
「コーヒーごちそうさん。またそのもう1人の20歳越えにも会わせてくれよ」
「はいはい。とは言っても彼女は最近忙しそうだからね。先になると思うよ」
「いつでもいいさ。俺は暇だからな」
そう言うと田中は席を立った。店を出ようとドアに手をかけると、大賢者が声をかけた。
「サングラス、忘れてるよ」
「あぁ、ありがと」
桐崎町は不思議な町だ。青白い化け物はうじゃうじゃいるし、それ以上にヘンテコな金髪の美人がいる。それでも田中は、平和に暮らしているのだった。