怖かった。
人が。人が話す言葉が。
この世界中のありとあらゆる音が嫌いだった。
2年間、私は引きこもりだった。
昼から夜までただ、何もない壁にわけわかんないことをブツブツぶつけていた。
そんな日々だった。
そんなある日、家にいる母から呼び出された。
久しぶりに部屋から出ると、リビングの懐かしい匂いがして、コーヒーの匂いも漂っている。
椅子に座って、向かいの母に顔を向ける。2年越しの母はさすがに老けていた。電灯の白が、痩せこけた頬骨に陰を作っていた。
そして、母はテーブルのホワイトボードに手を伸ばした。
そして、すらすらと書き記した。
貴方、これからどうするつもり?
ホワイトボードとマーカーを手渡され、私は書いた。
わからない。どんな仕事があるのかも知らない。
私はこれからも、この生活を続けて、のろのろ死んでいくつもりだよ。
すると母は、
あんた。良い加減甘ったれんな!
私は目を見開いた。
これからどうするかなんて関係ない!
まず目の前のやるべきこと見つけて、それに向かって行動すんの。
遅いよ。
私はあんたを障害者だろうがなんだろうが対等に接するから。そうするから。
母が思い切り書いた言葉を、じっくりと読み直す。
「あんたなら出来る。生きる価値があるから。」
聴こえた。
今、母が喋った言葉。
鮮明に。たしかに聴こえた。
心が震える。振動が目に伝わる。
「ごめんあさい…ごめん」
自分の声は、聞こえなかった。
でも、たしかに聴こえた。母の言葉。
私は、思い切り泣いていた。
書き忘れてました!
このお話は、女の子のサイドストーリーです!