大賢者が杖を振り終える。いつの間にか足元に展開されていた魔法陣は車の床面積を大きくはみ出し、描き出された複雑な幾何学模様は見惚れるほどに美しく複雑に絡まりあい、形づくる光の線は脈動を高鳴らせていた。
「知性化したファントムが軍を成す、それはいままでのどんな大攻勢よりも凄惨な結果をもたらすだろう。ゆえに我々は奴等を排除するために来た。幸い奴等は未だ目覚めていない。まだその期ではないと判断しているのか、それとも起動までに時間がかかるのか……理由は定かではないが、今こそ奴等を叩く絶好の機」
出来上がった魔法陣を一通り眺め一つ頷くと、大賢者は最後に新たな魔法陣を生成し始めた。それは先ほどまで作っていた巨大な魔法陣とは比べ物にならないほど小さいが、装飾は相変わらず息を呑むほどに美しい。
「しかしまずその前に、秘匿された舞台の幕を取り払い、敵を君たちの目に晒すとしよう」
小さな魔法陣は大賢者の手元を離れ、ゆっくりと地面に落ちてゆく。大きな魔法陣には初めから一部小さな真円が空いていたが、小さな魔法陣はそこに吸い込まれるように落ち、やがて最初からそこに存在していたかのようにぴったりと大きな魔法陣の一部に取り込まれた。
かちり、と鍵が解錠される音が静かに響く。
――魔法陣が光を増すのと同時に、変化は劇的だった。
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お久しぶりです。#10更新です。今回は三つに分かれました。
スタンプ等ありがとうございます。当初の予定からだいぶ延びていますがゆっくりと完成まで向かってますので、もう少しお付き合いをば。