「楓花、別れよう」
佐藤楓花(仮名)
夕焼けの空が目にしみる。
こんなにも空は遠かったのか。
ふざけて歩く下校途中の小学生達の
やけに明るい声が、私の頭に響く。
そうか。
今まで私は君と一緒だったから、
ずっと君しか見ていなかったから、
何も気付かなかったんだね。
夕焼けの美しさも痛さも儚さも、
小学生の明るさもパワーもスタイルも、
駅に響く電子アナウンスの無機質さも、
踏切の前に立つ人々の顔も。
何も知らなかった。
知ろうともしなかった。
君はそんな私の性格を見抜いていたんだね。
君と一緒にいる間、
世界には二人だけしかいない気がして、
あの夕焼けだって私達のものの様に感じてた。
いつか二人で羽ばたく空は、
ずっと続いていると思ってた。
考えが甘かった。
今日、その空が途切れて、私達の世界も壊れた。
あっという間に、私一人の世界の出来上がり。
いざ一人で過ごす世界。
夕焼けは痛くて、小学生は大きくて、
私の存在は急速に萎んだ。
君はどうだろうね。
多分、変わらないんだと思う。
次、私にこの人って思える様な、
大事な人に出会えたとしても、
今回みたいなことはしない。
気付こうとする。知ろうと思う。
彼のことも、世間のことも、両方とも。
これが当たり前だったんだよね。
私、少しでも成長出来るかな。
まずは、一人で帰らないと。
夕焼け空を見上げて、大きく深呼吸して、
清々しい気分で帰路についた。