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霧の魔法譚 #11 1/2

魔法陣から放たれた光は激烈で、数瞬ののちイツキが目を開けると、まず見えたのはフロントガラス越しに見える海だった。その様子は表面上先ほどと変わらず平穏そのもの。
――いや。
いいや、イツキはどこか違和感を覚えることに気づく。
見慣れた海のはずなのに安心感が一切感じられない。なぜか波立っていない海水面は太陽の光を無機質に跳ね返し、先の見通せない真っ黒な海が口を大きく開けて待ち構えている。
生きた空気が徹底的に排除され、自分たちこそが異質な侵入者だと強制的に自覚させられるような感覚。生命の存在が全く感じられず、なぜか自分たちが生きていると知られてはいけないという強迫観念に囚われる。
それはまるでUFO内部に忍び込んでしまったかのような不安感。眠れる獅子の檻に放り込まれたかのような恐怖。
なんだこれ、と思うより先に、違和感の正体に気づいてしまった。
それはさっきまで明らかに存在していなかった、水平線上から続く何条もの線。
その一つを辿っていくと、自分たちの足元の海上にも広がっていることを確認できる。どうやら線は線からできているのではなく、黒い点がいくつも連なってできているようだ。
黒い点。
目につくと今度はその黒い点ばかりが目に入る。広大な海を縦横無尽に走る点はどこまでも続き、追いかけていくと水平線まで続いている。碁盤の目状に形成された、点の集合体。
いくつも、いくつも、いくつも、いくつも。それは途切れることなどなく。
気が付けば、海のすべてを黒い点が覆っていた。
まさか、という呟きは声にもならない。
だって見たくもないのに見てしまった。確認したくなかったのに、危機本能がそれを求めてしまった。
黒い点の一つを凝視して、知ってしまった。
人も自然も成しえない、本来この地球上に存在してはいけない何かが残した怪奇。
見てはいけない世界のバグを見てしまったかのような気持ち悪さ。
その一つ一つが、すべて同じ形をしたファントムであることに。

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