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霧の魔法譚 #11 2/2

心臓が早鐘を打ち、背筋には生理的嫌悪からくる冷たさが撫でる。
大賢者は自らの魔法で起こした変化を視認して、ふぅと息を一つ吐いた。
「改めてみると圧巻というか……いや、君の前では不謹慎だったかな。とにかく、これらすべてがファントムって言うんだから、敵もなかなかの数を揃えたものだね」
大賢者はクッキーをもう一度取り出して食べていた。精神力を急激に消費したせいで蒼白になっていた肌色が見る見るうちに回復していく。おそらく精神力補充用のクッキーとかなのだろう。
「……大賢者が使った魔法って何なんだ?」
精神力を失ってないくせにすでに生きた心地がしないイツキが絞り出すように尋ねる。大賢者はぺろりと唇を舐めると、淡々と答えた。
「今目の前に現れた秘匿ファントム軍に探知ジャミングが施されていた。魔法でも直視でも見ることができないという驚異のステルス性能さ。それで私はそれを破った。やったことはただそれだけ」
ただし、と大賢者は続ける。
「イツキ君にはなかなかダメージが大きかったみたいだね。まあ自分を殺そうとやって来る敵が奇麗に整列して並んでるんだ。いわば”未知の敵兵工廠”に足を踏み入れたようなもの」
実際には敵はここで生産されているわけではないけど、敵の本陣は間違いなくここだろうね。大賢者はあくまで淡々と語る。3万の前哨隊で魔法使いたちを疲弊させ、ここに残った知性化したファントムで敵を”効率的に狩る”。故にカギとなるこの本隊の存在を秘匿したかったのだろうと。
「これが……全部、なのか……?」
イツキの口からこぼれるように言葉が漏れた。大賢者はすぐにイツキが何を言いたいのか察して、その答えを述べる。
「そうそう。ざっと見た感じ向こうの1/3程度だから……1万くらいはいるのかな」
知性を持ったファントムが鋳造品と比べてどのくらいの戦力比があるのか分からないが、3倍は軽く凌駕するだろうことは想像に難くない。
「だから排除しなくてはいけないんだよ」
大賢者は二つ目の魔法陣を作成し始めた。

***
#11更新です。イツキ君は正気度判定しましょうね。

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