物心ついた時から、僕はナイフを握っていた。
蝶々結びのやり方より先に、ナイフの投げ方を教わった。父は、元・サーカス小屋1の人気者ー"前・デュマ"だ。
僕は、まだ歩くこともままならない頃から、父の後を継ぐ、素晴らしいナイフ投げになることを誓わされた。「1番」というレッテルを貼られて一生を生きることになったのだ。
ただシールで貼られただけだった「1番」は、今ではしっかりと焼きごてで焼き付けられている。
僕は目隠しをしたバニーガールに向かってナイフを投げるたび、涙を流す。みんなはそんな僕を、失敗を恐れる弱虫だと軽蔑する。でも僕は、失敗なんか怖くない。僕が恐れるのは、あの娘が本当は恐い思いをしているのでは、ということだ。だって、自分の身体スレスレにナイフを投げつけられるのだよ?
このサーカス小屋は外とは違う世界だ。
法律も憲法も通用しない。
歌姫もピエロも調律師もいるけど、天国なんかじゃない。
僕は、デュマの息子。所謂ボンボン。
1番人気の父の名を襲名できたのは、父が体を壊して長期療養に入った時期に、たまたま僕が義務教育を終了して、たまたま父の弟子がいなかったから。
本当に、たまたま。運ゲー甚だしい人生。そんなもんだろ。