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雌牛

 髪の美しい女がいた。髪の美しい女は、美しい髪を保つため、毎日髪にバターを塗っていた。
 貧しい男がいた。貧しい男は、髪の美しい女に恋をしていた。貧しい男は、こつこつ金を貯め、雌牛を購入した。乳を搾って、バターを作ろうと思ったからだ。もちろん、髪の美しい女にプレゼントするためだ。
 雌牛は、乳を出さなかった。子どもを産んでないからだ。したがって、貧しい男は、髪の美しい女になんらのインパクトを与えることもかなわなかった。髪の美しい女は、三十手前で、金持ちの男と結婚した。
 貧しい男は、髪の美しい女の気をひくこともできず、一生貧しいままで人生を終えた。当たり前だ。雌牛は子どもを産まなければ乳は出ないのだ。この程度の知識もないようなばかが金持ちになれるわけがない。だけどそれがどうした? 雌牛はよくなついていたし、ばかだったから誰のうらみも買ったりしなかった。幸せってのは、こういうことをいうのだ。
  
 

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