『君の手にあるその双眼鏡。なかなかゴツくて倍率も高そうじゃないか。たぶん、真夜中くらいかな。君は部屋の窓かどこかから、その双眼鏡で街を見ていた。合ってる?』
その通りだ。そして……。
「そして、遠くを見ると、何か虫のようなものが見えた。何かと思ってよく見ると、明らかに人じゃない男の子が手を振りながらすごいスピードで走ってきてた。合ってる?」
「うわ、喋った」
「うん、面倒になってきてね」
「さいですか……。まあ、当たってます」
「やった。で、こっちに来てる。目もバッチリ合っちゃってる。奴の狙いは明らかに自分。それで家を飛び出して逃げてきたってわけか」
「……はい。なんで分かるんですか?」
「なに、ネットに似たホラーの小話があった、ただそれだけさ。まあ、あれを読んだことのある僕からすれば、夜中に双眼鏡で外を覗くなんて、絶対やりたくないけどね」
「………夜景を見ていた。ただそれだけだったんです」
「ふーん。やっぱりソレ使うと違うんだ。まあ問題はそこじゃない。『あれ』をどうやってやり過ごすかだ」
それを聞きたかった。思わず前のめりになって訊く。声はどうにか小さくできた。
「ど、どうすれば良いんですか?」
男は腕を組み目を瞑り、カッ、と目を開いて言った。
「まったく分からん」