「……はあ?」
「ネットだとね、主人公は恐怖で部屋の中でガタガタ震えるしかできなかったのだよ。そいつが家まで来るが、扉をバンバン叩いて喚きまくって、それで主人公は気絶。朝になったら居なくなってた。そういうお話」
見た目通り頼りにならない男だ。話に付き合って損をした。今こうしているうちにも、奴はすぐ近くまで来ているかもしれないというのに。
拗ねたように外を見る私に、男が続けて話しかけてきた。
「まあまあ、でも、対処法の予測はついてるからさ」
「……それなら早く言ってくださいよ!どうやって倒すんですか!」
「倒す?そりゃ無理だ」
キョトンとした態度がまた腹立たしい。
「けど対処法はあるって……!」
「うん。けどこれは、飽くまで『やり過ごす』ための方法だからね」
「……じゃあ、どうするんですか?」
「簡単だ。夜通し逃げ続けるだけ」
今度という今度は、流石にブチ切れた。そんな私でも簡単に思い付くようなことが聞きたかったんじゃない。驚くほど自然に、男の胸ぐらを掴んで締め上げる。
「まあまあ。良いかい、怪異に出会った際に注意すべき点がいくつかある。一つ、『怪異に近付き過ぎてはいけない』、二つ、『怪異から遠ざかり過ぎてはいけない』、三つ、『物語は終わらせなければいけない』。まあ他にもあるんだけど、とにかく大事なのは、人の手で物語を終わらせることなんだよ」
話が全く見えてこない。とりあえず手は放す。
「これは飽くまで僕の考察なんだが、今回の怪異に関して、鍵となるのは『双眼鏡で見る』という行為だ。多分、これが奴の行動の鍵になってるんだ。生物学でいうところの『鍵刺激』。だから、『見る』。これが答えだ」