なるべく居眠りをしないように、苦手なあの人と目が合わないように、周りの音を雑音に聞こえるように、意識し続ける時間が終わった。学校が終わり、親に電話をかけ、帰りの車を待った。今日は昼から雨が降っていたようで、周りが騒いでいた。そんな僕が雨が降っていることに気づいたのは、放課後になってからだった。だが、僕は生憎、傘を持ってきていない。親が学校に着くまでに15分から20分ほどはかかる。今日は日直だったので、ゴミ捨てもあるし、ゆっくり歩いていこう。濡れる、ということはこの際、気にせずにゴミ捨てを終え、駐車場まで歩いていた。歩きながら思ったのは、寒い、ということ。どうせ小雨だろうし、そんなに寒くはないだろう、という僕の詰めの甘い予想とは裏腹に、外の気温自体が低く、雨もまあまあ降っていた。傘を持っていない僕には、少し厳しい状況だった。
駐車場には着いたが、見慣れた我が家の車が見当たらない。どうやらまだ親は来ていないようだった。最悪なことに、駐車場には雨をしのげそうな場所はなく、仕方がないので木の下に入って親の迎えを待っていた。少し経つと、こちらに歩いてくる人影が見えた。雨で眼鏡が濡れるのは嫌だから、眼鏡をはずしていたので、ぼんやりとしかわからなかったが、どうやらほかの生徒に保護者と思われる女性だった。するとその女性は僕のすぐ近くまで来て、こう言った。
「お母さんまだ来ないでしょ。濡れちゃうからこの傘さして。」
見ず知らずの人に助けてもらうのは申し訳ないと思い、僕は慌てて断ったが、半ば強引に押し切られてしまった。その女性は、僕に傘を渡すと自分の車に足早に戻ってしまった。僕はお言葉に甘え、その傘をさして親を待っていた。