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対怪談逃避行6

しかし、話しながら走ったせいか、脇腹が痛くなってきた。止まるわけにはいかないのに、痛みで足が鈍る。
「ちょ……まっ……待って………、脇腹が……」
「む、なら少し休もうか。十分距離も開いただろうからね」
「ありがとう、ございます……」
脇腹を押さえてへたり込む。深呼吸しながらマッサージをするが、まだ痛みは引かない。
「だいぶ冷めてるけど、マックスコーヒー飲むかい?糖分とカフェインが同時に摂れるよ」
蓮華戸さん(仮)が、コートのポケットから缶を引っ張り出し、差し出してきた。受け取るだけ受け取って、とりあえず放置しておく。
「……『奴』は、またあの辺でキョロキョロしてるんですかね……」
「それなら良いんだけどね……」
蓮華戸さん(仮)は、今来た方を睨みながら、半ば上の空で返す。さり気なく双眼鏡がスリ取られてるけど、責める気もしない。
「どういうことですか?」
「君は、三度同じ方法で『奴』から逃げた。これ以上、騙されっ放しでいると思うかい?僕はそう思い込み切れない。『奴』がただのプログラムから、自律行動する完成品になるかもしれない。そして、多くの怪異は、標的との間にできた『縁』を、決して見逃さない」
蓮華戸さん(仮)が双眼鏡で、さっき居た方を見る。不思議なことに、首を回してさっきの場所以外の場所を見ている。
「………しまったな、『奴』が完成したぞ。僕達を、いや、正確には君を追ってきてる。嗅覚で指名手配犯を追い詰める警察犬のように、道に残った『縁』を辿って。あ、目が合った。これで僕も標的だ。……さあ、もう休んでいられない。走るよ」
「は、はい……!」
だいぶ楽になってきた。これなら走れる。蓮華戸さん(仮)を見失わないように、急いで立ち上がり、私も走り出す。

  • 長編小説
  • 月を跨ぐと更新する気力が削れる怪現象
  • 都市伝説(?)アレンジ
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